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札幌地方裁判所 昭和55年(わ)1161号 判決

主文

被告人Bを懲役一年六月に、被告人Cを懲役一年八月に、被告人Aを懲役二年八月に、被告人Dを懲役二年にそれぞれ処する。

未決勾留日数中被告人B、被告人C及び被告人Aに対し各三〇〇日を、被告人Dに対し二八〇日をそれぞれその刑に算入する。

被告人B及び被告人Cに対しこの裁判確定の日から各四年間それぞれその刑の執行を猶予し、その猶予の期間中それぞれ保護観察に付する。

訴訟費用中、証人H、同F及び同Gに支給した分の各四分の一ずつを被告人B、被告人C、被告人Aに、証人Iに支給した分の二分の一を被告人Aにそれぞれ負担させることとする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人Aは住吉連合小林会山本一家入江組組長、被告人B、同C、同Dは右入江組組員であるが、

第一、被告人C、同B、同Dは、右入江組組員であるE、Fと共謀のうえ、昭和五五年一〇月一二日午後一〇時一〇分頃、札幌市中央区南一条西四丁目付近路上において、自動車を運転中駐車していた被告人らの自動車に追突した少年らに対し因縁をつけていた際、たまたま自動車を運転して同所を通りかかったG(当時一九歳)及びH(当時一九歳)を前記少年らの仲間と誤信した被告人Cにおいて、右Gらに対し、「ちょっと待て」などと声をかけ、停車した同人らの自動車に助手席側ドアから乗り込もうとしたところ、危険を感じた同人らが、被告人Cが同車に乗り込もうとした状態のまま同車を発進させて逃走しようとしたため、右Gらを追いかけ、同人らが同車を降りて同区南二条西五丁目一番地所在の飲食店「ラーメンの大公」店内に逃げ込むや、同店内において、同人らの両腕を引っ張るなどして同人らを同店から引きずり出し、同店付近道路上に待機させてあった普通乗用自動車(ツードア型)まで連行し、同人らに対し同車に乗るよう命じて同人らを同車後部座席に乗車させ、もって同人らを逮捕し、さらに同所から同市白石区中央一条二丁目一三番地所在の第三北海ビル横駐車場まで同車を疾走させて同人らが同車から脱出することを不能ならしめ、ひき続き同日午後一〇時四〇分ころ、同ビル二階住吉連合小林会山本一家入江組事務所内に同人らを連れ込んだが、その後は同事務所内にいた被告人Aも被告人Cらと意思相通じ、右G、Hを監禁することを共謀し、こもごも同人らの周囲を取り囲むなどして同月一三日午前一時頃までの間、同人らが同事務所から脱出することを不能ならしめ、もって、同人らを監禁した、

第二、被告人四名は、前記E、Fと共謀のうえ、

一、同月一二日午後一〇時四〇分頃から同日午後一一時四〇分頃までの間、同事務所において、右G、Hに対し、それぞれの頭部、顔面、背部等を多数回に亘って手拳で殴打したうえ足蹴りするなどの暴行を加え、よって右Gに対し全治まで約三週間を要する頭部打撲、左前腕挫傷の傷害を、右Hに対し全治まで約三週間を要する顔面打撲、口唇挫創の傷害をそれぞれ負わせた、

二、右同日午後一一時四〇分すぎ頃から翌一三日午前一時頃までの間、右事務所内において、被告人らによる前記暴行により右G、Hの両名が畏怖している状態を利用し、被告人Cが右Gらを追いかけた際負傷したことを種に同人らから金員を喝取しようと企て、被告人Cにおいて、右G、Hらに対し、「親指怪我した。明日から働けない。」などと申し向けて暗に金員の交付を要求し、同人らをしてその要求に応じないときは更にその身体にいかなる危害を加えられるかも知れない旨畏怖させ、同人らから現金八〇万円を喝取しようとしたが、同人らがその後警察官に通報したためその目的を遂げなかった、

第三、被告人A、同Dは、Iが、昭和五五年六月被告人Aが組長である前記入江組の顔合せ会に参加したにもかかわらず、それ以後同組の事務所に顔を見せないことなどに因縁をつけて金員を喝取しようと企て、共謀のうえ、同年一二月二日午前二時頃、同市豊平区平岡三二四番地紙アパート右I方居室において、同人(当時二一歳)の胸部にライターを投げつけるなどの暴行を加え、更に同人に対し、「これまでの会費などとして七万円を払え。組織をやめるには本来なら指をつめるんだ。俺の若い者がお前にヤキを入れたがっている。」などと申し向けて金員を要求し、もしその要求に応じないときは右Iの生命・身体にいかなる危害を加えるかも知れないような気勢を示して脅迫し畏怖させ、よって、同日午後一〇時五〇分頃、同所において、同人から右要求額の一部として現金一万円の交付を受けてこれを喝取した

ものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人B、C、Dの判示第一の所為はいずれも包括して刑法六〇条、二二〇条一項に、被告人Aの判示第一の所為は同法六〇条、二二〇条一項に、被告人四名の判示第二の一の所為はいずれも同法六〇条、二〇四条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、被告人四名の判示第二の二の所為はいずれも刑法六〇条、二五〇条、二四九条一項に、被告人A、同Dの判示第三の所為はいずれも同法六〇条、二四九条一項にそれぞれ該当するところ、判示第一、第二の一、第二の二の各罪はそれぞれ一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、それぞれ同法五四条一項前段、一〇条により一罪として、判示第一については犯情の重い右Hに対する逮捕監禁(但し被告人Aについては右Hに対する監禁)罪の刑、判示第二の一については犯情の重い右Hに対する傷害罪の刑、判示第二の二については犯情の重い右Hに対する恐喝未遂罪の刑でそれぞれ処断することとし、判示第二の一の罪については所定刑中各被告人につき懲役刑を選択し、各被告人につき以上はいずれも同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第二の一の罪の刑(但し、短期は判示第一の罪の刑のそれによる)にいずれも法定の加重をした各刑期の範囲内で、被告人Bを懲役一年六月に、被告人Cを懲役一年八月に、被告人Aを懲役二年八月に、被告人Dを懲役二年にそれぞれ処し、同法二一条を適用して未決勾留日数中被告人B、同C、同Aに対し各三〇〇日を、被告人Dに対し二八〇日をそれぞれその刑に算入し、被告人B、同Cに対し、情状により同法二五条一項一号を適用してこの裁判確定の日から四年間それぞれその刑の執行を猶予し、なお同法二五条の二第一項前段により被告人B、同Cを右猶予の期間中いずれも保護観察に付し、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条一項本文により証人H、同F及び同Gに支給した分の四分の一ずつを被告人B、同C、同Aに、証人Iに支給した分の二分の一を被告人Aにそれぞれ負担させることとし、被告人Dについては、同法一八一条一項但書を適用して訴訟費用の負担はさせないこととする。

(被告人Aの判示第一の事実に関する承継的共同正犯の成否)

被告人Aの判示第一の事実に関する公訴事実の要旨は、「被告人Aは、被告人Cら五名と共謀のうえ、昭和五五年一〇月一二日午後一〇時一〇分ころ、札幌市中央区南一条西四丁目先路上を自動車を運転して通りかかったG及びHの両名に対し、因縁をつけ、同区南二条西五丁目一番地所在の飲食店「ラーメンの大公」店内において、同人らの両腕を引っ張るなどして同人らを同店から引きずり出し、付近に待機させてあった普通乗用自動車まで連行して強いてこれに乗車させ、ツードアの同車後部座席に同人らを座らせ、同所から同市白石区中央一条二丁目第三北海ビル二階住吉連合入江組事務所に同人らを連れ込んだうえ、こもごも同人らを取り囲み、同月一三日午前一時ころまでの間、同人らが同所から脱出することを不能ならしめ、もって同人らの自由を不当に拘束して逮捕監禁したものである。」というものである。

右公訴事実について、検察官は、「本件逮捕監禁罪についての被告人Aの共謀は、被告人Cらが被害者両名を右入江組事務所に連行した時点から成立したものであるが、それ以前の逮捕監禁行為についても、承的共同正犯としての罪責を負う趣旨である。」と釈明した。

そこで検討するに、関係証拠によれば、被告人Aは被告人Cら五名による被害者Gら両名を判示入江組事務所に連行するまでの間の右両名に対する逮捕監禁行為には関与しておらず、右事務所連行後被告人Cらと意思相通じ、共謀して監禁行為に及んでいることが認められる。ところで当裁判所はある犯罪の実行行為の途中からその犯行に関与介入した者に対し、同人が介入前の先行行為者の行為についても、いわゆる承継的共同正犯として刑事責任を負わせてよい場合があると解するものであるが、そのためには、後行行為者において、先行行為者の行為及びその生じさせた結果・状態につき、少なくともその概要を認識認容し、先行行為による結果又は状態を自己の爾後の犯行のためにことさら利用する意思をもって、先行行為者とともに残りの実行行為に関与介入(共謀又は実行行為の分担)することが必要であると考える。そこで、これを本件についてみるに、関係各証拠によっても、被告人Aが判示入江組事務所連行前の右被害者G、H両名に対する被告人Cら五名の逮捕監禁行為の内容やその際の右被害者らの状態につき右被告人Cら(先行行為者)から説明を受けた事実は認められず、またその他の方法で右状況の概要さえも認識していたものとは認められず、したがって右状況をことさら利用するとの意図のもとに右事務所内における右被害者両名に対する監禁行為に関与したとの事実も認められない。そうすると、被告人Aに対し、同被告人の関与以前の被告人Cら五名による被害者両名に対する右事務所に至るまでの逮捕監禁行為についてまでも承継的共同正犯としての刑責を負わせることはできないものであって、この点に関する検察官の主張は採用しない。

(量刑の理由)

本件は、いわゆる暴力団員である被告人らが、判示のとおりの経緯でG、H両名を逮捕監禁し、自己らの組事務所へ連行し、同事務所内で無抵抗の両名に対し多人数で執拗かつ強度な暴行を加えて両名を負傷させ、さらに金員を喝取しようとし(判示第一、第二の各事実)、また被告人A、同Dにおいては、右組事務所に顔を見せなくなったIに対しても因縁をつけ金員を喝取した(判示第三の事実)という事案で、いずれも暴力団組織を背景とした悪質事犯であり、さらに、被告人Aは入江組組長であり、昭和五三年七月に札幌地方裁判所で覚せい剤取締法違反の罪で懲役八月執行猶予三年に処せられ、判示各犯行当時執行猶予中の身であったこと、被告人Dも昭和五三年一一月旭川地方裁判所で恐喝、傷害の罪で懲役一年執行猶予三年に処せられたばかりでなく、昭和五四年一〇月には札幌地方裁判所で懲役五月執行猶予四年(保護観察付)に処せられていたもので、本件各犯行当時は右の各執行猶予期間中であり、特に身を慎しむ必要があったこと、しかも被告人A、同Dとも判示第一、第二の犯行後二か月を経過せずして判示第三の犯行に及んでおり、いずれも暴力的犯罪の累行性が認められること、被告人Cは判示第一、第二の各犯行の発端を作ったもので、判示第二の二の恐喝未遂事件においても、被害者に示談書を書かせるなど積極的な行為に及んでいること、被告人Bにおいても、判示第二の一の暴行に際し、木刀や包丁を持ち出し、被害者らに殴りかかったり、つきつけたりするなど積極的な行為に及んでいることなどを併せ考えると、各被告人の刑事責任はそれぞれ相当重いものといわざるをえない。

他方、被告人らは、被害者である右G、Hに対しては各一〇万円、右Iに対しては五万円を支払いそれぞれ慰藉の措置を講じていること、被告人B、同Cについては、これまで前科がなく、相当長期間の勾留を経て現在本件犯行を反省し、暴力団組織からも足を洗う意思を表わしていることなどを考慮し、今回に限り主文掲記の刑を量刑したうえ、その刑の執行を猶予し、なお本件犯罪自体の性格、右両被告人のこれまでの生活状況、家庭環境等を考慮し、その指導、監督に万全を期すべく、裁量として右猶予の期間中、いずれも保護観察に付することとするが、被告人A、同Dについては、右のとおり、被害者らに慰藉の措置を講じ、また現在本件犯行を反省していることなど被告人に有利な諸事情を斟酌しても、右両被告人の前示諸情状に鑑みれば、主文程度の実刑はやむをえないところと考える(求刑、被告人B、同C・各懲役二年、被告人D・懲役三年、被告人A・懲役三年六月)。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥田保 裁判官 岡部信也 横田信之)

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